【インタビュー】AKB48メンバーサプライズ出演の卒業式・閉校式を手がけたミュージックバンクのプロデューサー・A&Rの石井亮輔に制作の裏側を聞いた

石井亮輔

少子化による生徒減少のため、2019年3月末に学校統合が決定している神奈川県の松田町立寄(やどりき)中学校。3月10日(日)に、同校最後の卒業式と閉校式が行なわれたのだが、式当日にはなんと人気アイドルグループ・AKB48の6人のメンバーが登場し、卒業生を祝福するという感動的なシーンがあった。このサプライズ、実は同校の卒業生で、作詞・作曲家としてAKBグループの楽曲などを手がけるソングライターの石井亮輔氏が企画したものだ。ミュージックバンクの音楽プロデューサー・A&Rでもある石井氏に今回、この企画に込めた思いや制作の裏側について話を聞くことができた。

──まず、今回のサプライズを手がけたきっかけを教えてください。

石井亮輔(以下、石井):閉校式が行なわれたのは僕が20年前に卒業した地元の中学校なんです。これまで自分はあまり母校のことをあまり気にしてこなかったんですが、たまたま20年来会っていない友人がFacebookで「久しぶり!音楽の仕事をしてるんだね!」というような連絡をくれたんです。それで話をしているうちに「中学校が閉校するんだよ。知ってた?」と言われまして、ネットで調べてみたら町の記事で『統廃合』という事実が出ていて、「あ、そうなんだ・・・。」と思って。それを知ると、なんだか急に母校のことが気になり始めてしまいました。

──寂しい思いもありますよね。

石井:そうですね。「学校がなくなっちゃうのか・・・。」と思い始めたら、急に色々な思い出が蘇ってきちゃって。そんなときに、閉校のことを教えてくれた友人から「せっかくだから何かサプライズよろしく!」と勢いで言われました。「よろしく!」って言われても「何やるんだよ?」っていうところから「やるとしたら何ができるかなあ?」と思って、町の役場に「寄中学校の出身者なんですが、閉校式で何か楽しいステージを準備できたらなあと思いまして・・・。」というようなメールを送ったんです。そうしたら、すぐに「とてもありがたいです!」という内容のメールを返信してくださって。それで、びっくりすることに、AKBグループがオフィシャルで使用している『755』っていうSNSアプリに僕も参加しているんですけど、僕のところによくコメントを書いてくれていたAKBファンの方がその町役場の方だったんです。「○○っていうアカウント名でコメントさせてもらっている△△です。わかりますか?」みたいな(笑)。本当にびっくりしました。その町役場の方が学校にも話を繋いでくださって、そこで「この偶然は運命かもなあ。AKB48を呼べたらいいなあ。」と思いながら、「何ができるか?」みたいなところが発端でした。

──サプライズの構想自体はいつ位からあったんですか?

石井:相談をし始めたのは9月末位で、「これができたらいいなあ。」っていうイメージくらいでしたね。

──今回、AKB48の6名のメンバーが出演されたんですけれども、この話はどういった形で進行していきましたか?

石井:NHK(BSプレミアム)の『AKB48 SHOW!』という番組がありまして、その番組の制作を統括されている石原プロデューサーとは仲良くさせていただいたり、僕自身がとてもお世話になっているんですが、番組の中で『卒業式にサプライズライブ!』というようなコーナーで「中学校の閉校式を盛り上げてくれませんか?」っていう相談と提案を石原さんに電話で話してみたんです。そのときは、話をしてみるだけしてみて、追って検討していただけたらと思っていたんですが、石原さんから「どこにある中学校ですか?」「どういう経緯で閉校に至ったんですか?」「東京からどのくらいで着きますか?」「石井さんが在校生だった頃はどのくらい生徒がいたんですか?」など、その電話でたくさん話を聞いてくださって。真剣に相談と提案を受け取ってくれているのがこちらに伝わってきて、とても嬉しかったのを覚えています。懸念点としては、AKB48は被災地での復興支援ライブを毎年この時期に欠かさず行なっているので、閉校式の日程が3月10日ということもありまして、スケジュールの問題はあるかも・・・というのがありました。

──そんな難しい中で来てくださったのが小嶋真子さん、村山彩希さん、茂木忍さん、北澤早紀さん、山内瑞葵さん、浅井七海さんの6名ですね。

石井:僕が作曲を担当した曲のオリジナルメンバーを中心に集めようと石原プロデューサーが動いてくれました。やっぱりそこは縁ある形でっていうのは考えてくださって。事務所(AKS)の方々も「とても良い趣旨なので。」と言って協力してくれたと聞きました。それで「この6人で行きましょう」と決まった感じですね。

──ミニライブも行なわれましたが、セットリストはどうやって決められたんですか?

石井:サプライズ当日の1週間ほど前に関係者やスタッフを揃えた全体ミーティングが行われたんですけど、石原プロデューサーがリーダーとなって流れだったり演出だったりのベースを考えながら、少し寂しい閉校式の中で楽しい思い出を作ってもらおうというテーマのもと、AKBのメンバーがサプライズで登場してから大いに盛り上がってもらえるセットリストにしようっていうところで組んでいきました。式典の中で僕に任せてもらったステージの持ち時間は30分間だったんですけれども、その中で基本的にワンハーフ(1コーラス半)位の曲のサイズ感で「じゃあ5曲ぐらいできるか?」みたいなところから。AKB48は色々な場所でミニライブなどを行なっているので、その経験から、まずは登場SEの『overture』を流して、メンバーが登場したら1発目に『ヘビーローテーション』で飛ばせば、誰もが目をつぶっていても盛り上がれるっていう鉄板の流れから入って。その後のMCへの展開だったり、この閉校式に来た経緯はどこで話そうかとか諸々を考えていきました。参加してくれたメンバーと僕との縁の部分で『LOVE修行』の入れどころを考えたりして。

石井亮輔

──サプライズに関してこだわった点はありますか?

石井:閉校式でのサプライズっていう性質上、会場には色々な世代の方々がいるので。例えば「老若男女みんなが知っている曲を入れないと!」というところから『恋するフォーチュンクッキー』か朝ドラ“あさが来た”の主題歌の『365日の紙飛行機』かで「どっちがいいと思いますか?」という話もありつつ。どちらも喜ばれると思うけど、閉校式は卒業生を含めた地域の皆さんが集まっている式典なので、色々な世代の方に響く楽曲をっていう部分で「ここはやっぱり365日の紙飛行機じゃないですか?」と答えまして、「では、“恋チュン”ではなく“365”にしましょう。」っていう感じで組んでいきました。でも、大体のセットリストがまとまりかけた頃に「やっぱり最後に“恋チュン”もやろうか!そうすればとにかくハッピーに終われるし!」って石原さんが言い出して(笑)。結局どちらも披露するという「どんだけサービス精神旺盛なんだよ!」っていうセットリストになりました。

──間違いなく卒業生や地域の皆さんの記憶に残るでしょうね。

石井:はい。番組スタッフの方々が本当に素晴らしいアイデアをどんどん出してくださって。番組内で放送されますが、最初の企画段階での「サプライズライブ」だけではなく、実は更にもう一つのサプライズも用意されています。みんなで発案し合って、楽しい記憶として残ることを練りました。正直、僕は今回の企画の仕掛け人に過ぎなくて(笑)。サプライズを実現できたのは、実際に動いてくださった何十人ものスタッフの皆さんのおかげです。

──サプライズを行なっていくにあたって苦労したことはありましたか?

石井:やはり企画当初に懸念されていた、メンバーのスケジュール調整の部分ですかね。メンバーが300人くらいいるんですけれども、やはり人気グループですし、その中でギリギリまでスケジュールが見えてこないという点で不安もありました。ただこれも、実際のスケジュール調整は僕ではなく石原さんや事務所の方々が努力してくださっていた部分なので。自分に何もできない期間があったりして、そんなときは、一緒に作っていただきたいと思う方にとにかく熱意を伝えようと細かい企画書を作ってみたり、学校側の段取りだけは僕のほうで9割仕上げておいて、メンバースケジュールが決まり次第、ラストの1割を詰めますよ的な環境にしておく動きを取っていました。

──今回のサプライズを実施してみての感想は?

石井:やっぱり「笑顔でいっぱいにしたい」っていう企画じゃないですか。なので、どうしてAKB48なのかって聞かれれば、もちろんそれは楽曲提供しているからっていうきっかけもあるんですけれども。公演とかコンサートを観に行くと、AKB48のメンバーはステージや雰囲気を作り上げるプロフェッショナルだなって、観るたびに本気で思わされるんですよ。僕の故郷は山の中の田舎ですけど、そんなプロフェッショナルな彼女たちのステージを是非、町の人たちに観てもらいたいという想いもありました。寂しいことだけじゃなく幸せなことも舞い降りてくるんだと町の人たちに感じてもらいたかったという想いもありました。だから「きっとこの6人のメンバーなら魅せてくれるだろう。」っていう期待がありました。結果は、やはり最高のパフォーマンスをしてくれましたね。歌割りとか、6人用のフォーメーションとか、段取りとか、当日レベルでの打ち合わせや確認なんですけど、これが全員、完全に頭の中に入っている。MCも状況をみて自分の言葉に置き換えて対応していて。目の前にいるお客さんを確実に楽しませてくれる。式典会場がコンサート会場の雰囲気になっていて、「ああ、AKB48が来てくれて本当によかった。」と思いました。6人のメンバーには本当に感謝しています。

──プロフェッショナルですね。

石井:はい。音響も会場でのリハーサルができないじゃないですか。サプライズライブなので。前日に僕だけ準備で入って、こっそりオケのバランスは取りはしたんですけど。本人たちからしてみれば体育館のステージ上は一体どんな環境で、一体どんな音が鳴るのかっていうのを全く把握できない状況ですからね。そんな中で一発勝負で立って、バシッと決めてきますからね。それを見ると「やっぱりすごいわ。」「プロだなあ。」って改めて思わされました。17歳から22歳のメンバーでしたけど、期待以上の表現で返してくれるところは流石でしたね。いろんな現場、例えば被災地などに出向いて、決して充実した機材や環境じゃないようなシチュエーションでも人を笑顔にさせてくれる力を持っているので。そういうところで経験値っていうか、どんな場所、どんなお客さんがいても楽しませたいっていうのが根付いていて。東京ドームであれ、体育館であれ、トラックの上のステージであれ、AKB48はAKB48なんだなあと感じさせられます。石原プロデューサーと話していたときに「たぶん彼女たちはSEのovertureが流れたら1分後にはスイッチが入る身体になっているんですよ。」って(笑)。だから今回も『overture』を流して緞帳が上がって登場というオープニングになってます。

──全体的にスケジュールが結構タイトですよね。

石井:当日はメンバーをあまり早く入れちゃうと式典の参加者の方々にバレちゃうっていうのもあったので、できるだけギリギリに入ってもらって。カメラマンなどの技術チームはNHKの取材という名目で朝一から入って卒業式の映像やインサート用に学校周辺の映像を撮ったりしていました。あとから来るメンバー車にもドキュメントカメラが入っていて学校に向かう様子なども収めていたんですが、会場に到着してから控え室に入ってからは本番まで時間がないので、急いで打ち合わせをして段取りを確認したりステージに上がる準備をしたりとバタバタしていました。

──それだけ並行して動いているとバレそうな気がしますね。

石井:そうですね。ハラハラしましたけど、当日は結構うまくいったはずです。

──みなさんほとんど気付いていなかったんですか?

石井:入る動線とかも誰にも会わない動線を作っていたので、気付かれずに済みました。中学校が校庭を挟んで小学校と向かい合っていて、学校同士が渡り廊下でつながっているんです。その真ん中に体育館があるような構図で。ルート的に中学校の中に控え室を作っちゃうと式典の受付とバッテイングする恐れがあって、小学校の裏から体育館の舞台袖に直接行けるルートを確保しました。小学校の給食室を全部カーテンで目張りして、そこを控え室にしてもらって(笑)。メンバー車のマイクロバスを小学校の脇に付けて廊下から一気に駆け足で給食室に入ってもらいました。番組の中でもそういうところを映しているかもしれません。

石井亮輔

──お話を聞いていると、みなさん一丸となって作り上げている感じがしますね。

石井:そうですね。でも、完全にサプライズなので、とにかく卒業生や出席者に知られないようにということで、式典の実行委員会の方々や学校の先生方にもギリギリのところまで内容を知られないようにしてはいました。「この中学校の卒業生の石井が何かをやる」っていうのは伝えられていましたけども、前日や当日まで「誰が来るのか?」「何が行われるのか?」を知らない式典の関係者もいました。ほら、どこにでもおしゃべりな人って絶対にいるじゃないですか(笑)。だからとにかく情報が漏れないようには気をつけていました。

──会場の雰囲気はどうでした?

石井:皆さん、喜んでくれていたと思います。会場が一体となっている実感がありました。

──町の皆さんの反応とかはどういった感じでしたか?

石井:閉校する位の中学校なので。本当に山の中なんですよ。コンビニも何もない、鹿とかイノシシが出ちゃうレベルの。そんな場所に「まさか(AKBが!?)」「そんなことが起こるとは!?」みたいな感じでビックリしていました。

──サプライズを実施してみて達成感はありましたか?

石井:企画が本格的に動き出したのが2月中旬以降で、それまでは「サプライズ企画自体を実現できるかどうか」の不安がありまして、逆に2月以降からどんどん具体的な要素が決まり始めてからは、協力してくださる多くの方々と関わる中で「絶対に成功させなければ」というプレッシャーが膨らんできていました。本番はPA含め音まわりを僕が担当していたので、その緊張もありました。「曲出しをトチったら台無しだ・・・。」とか「全然違う曲流してたらどうしよう・・・。」みたいな心配まで押し寄せてきまして(笑)。

──達成感というより安心感が(笑)?

石井:そうですね。とりあえず「終わった~!」みたいな感じですかね。結果は盛り上がりました。

──今回のサプライズを経て、次またこういったサプライズは考えていますか?

石井:サプライズではないですが、僕自身が2年前に病気になったことがきっかけで、今、小児がんの子供たちを支援するゴールドリボン運動に参加していまして、定期的にウォーキングイベントなどが開催されているんですが、そういったイベントに仲間のミュージシャンやアーティストにも参加してもらって、子供たちと音楽を通して笑い合えるようなネットワークを作れたらいいなあと思っています。支援の輪も自然と広がっていくと思うので。継続していきたいと考えている活動です。

──最後に一言お願いします。

石井:何でもそうなんですけれども、改めて、人は一人では何もできないなと。0から1を生み出して、そこから先を作り上げていくとき、関係する人の数だけ足し算ではなく掛け算となって、その1が100に仕上がっていくなと、いつもそう気付かされます。仕事に限らず、音楽に限らず、家庭とか人間関係とか、遊びや勉強でもなんでも、どんなことにも当てはまるのが「人対人」なので。相手のことを想像すること。感謝すること。恩返しをすること。それを自分はできているのか?今日はできていなかったんじゃないか?いつも考えているんですけど。その中で、全ては結果なので。「努力は決して裏切らない」という言葉がありますが、僕はそうじゃなくて「結果は努力を裏切らない」と考えて行動しています。今まで、やった努力が結果を肯定するのではなくて、実った結果がそれまでの努力を物語ってきたからです。「こうなったらいいなあ」と願うのではなく、「こうする」と決めて今後も結果を求めていきたいです。結果に向かっていく中で「相手を想像すること」「感謝すること」「恩返しをすること」を決して忘れてはならないと、今回のサプライズ企画で多くの方々と関わる中で改めて認識させられました。「生み出し、作り上げ、発信する」っていうエンタテインメントの世界に生きる僕にとって、そして、寄中学校の卒業生として、貴重な経験をさせていただいた証だと思います。ありがとうございました。

【番組情報】
NHK BSプレミアム『AKB48 SHOW!』
2019年3月24日(日)22:50〜 放送
2019年3月31日(日)9:30〜 再放送
『AKB48 SHOW!』番組URL:http://www4.nhk.or.jp/akb48show/

【関連リンク】
●石井亮輔 オフィシャルHP:http://ryosukeishii.net/
●石井亮輔 オフィシャルTwitter:https://twitter.com/ryosuke_ishii

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